休業補償とは?休業損害や逸失利益との違い、 具体的な計算方法を解説
2024/04/05
交通事故などで働くことができなくなってしまうと、収入が減って生活ができなくなるかもしれません。こうした事態に備えて、いくつかの仕組みが作られています。その代表例が「休業補償」です。また、休業に際して金銭を受け取ることができるという意味では「休業損害」や「逸失利益」も似た概念として存在しています。
この記事では特に休業補償について解説するとともに、休業損害および逸失利益についても紹介をしていきます。
休業補償の概要
「休業補償」とは、怪我等が原因で得られなくなった収入を労災保険から補償するという内容のものです。ただしその怪我等は、仕事中に起こった事故、通勤途中や勤務中などに起こった交通事故などであることが前提とされています。
労災保険による補償ということで、金銭は国から受け取ることになります。逆に言うと、怪我の原因である交通事故等を起こした相手方とのやり取りを行う必要はありません。当事者間での示談交渉なども必要ありませんので、加害者の支払能力があるのかを心配したり、直接加害者や加害者側保険会社とやり取りをすることに対する不安を抱く必要はありません。
休業損害との違い
「休業損害」は休業補償と似ていますが、まったく異なるものです。混同しないように注意しましょう。
休業補償は労災保険によるものですが、休業損害は実際に生じた損害分を加害者に請求することで回収したり自賠責保険に請求してその分を補填される補償です。
そのため仕事中の事故を前提とする休業補償に対し、休業損害の賠償請求はこのような前提は求められません。後述するように、受け取ることのできる金額についても休業損害だと上限がありません。
ただし,休業損害について,損害賠償請求を行うのであれば、事故を起こした相手方の故意または過失が必要ですし、相手方の過失およびご自身の過失の大きさが請求できる金額に大きく影響してきます。
さらに、直接相手方に請求したり任意保険会社に請求したりする場合には交渉力も結果に響いてきます。そのため希望額での支払いを実現するのであれば弁護士へ依頼した方がよいでしょう。
逸失利益との違い
「逸失利益」も、休業補償や休業損害と同じく収入に関わる問題です。休業補償や休業損害と大きく異なっているのは、“現に生じた損害が対象であるかどうか”という点です。
休業補償および休業損害は、現に生じた損害を賠償してもらうための仕組みです。 他方逸失利益は“未だ生じていないが将来にわたり生じると思われる損害分”に値します。 例えば,交通事故により後遺症を負ってしまうことがあります。後遺症の内容・程度によっては仕事に支障をきたしてしまうことでしょう。結果として、怪我がなければ将来得ることができた収入よりも,怪我を負ったあとは少ない収入しか稼ぐことができなくなってしまうかもしれません。この稼ぐことができなくなってしまった差額分を逸失利益と言います。 逸失利益は,実現しなかった未来の利益であるため,正確な損害分を計算することはできません。そこで,実務上は,後遺症の内容等に応じて一定額を将来生じる損害として扱っています。
休業補償を受け取ることができる要件
休業補償を受け取るためには、以下の要件を満たす必要があります。
① 業務中あるいは通勤中に発生した怪我や疾病であること
② ①が原因で、仕事ができない状態にあること
③ 会社から給与等の賃金を受けとっていないこと
ポイントは、“業務中か通勤途中に起こった事故”であるということです。
休日のドライブで交通事故に遭ったからといって休業補償が受けられるわけではありません。
また、有給休暇については補償対象外ですし、労働者ではない主婦・主夫も休業補償は受け取ることができません。
ただし、正社員であることまでは要件とされていません。アルバイトやパートなどであっても休業補償は受け取ることが可能です。
休業補償の計算方法
休業補償としていくらの金銭を受け取ることができるのか、以下に示す計算式を用いて概算できるようになっておくと良いでしょう。
基本の考え方は、「1日あたり給付基礎日額の80%の補償」です。
まずは,給付基礎日額を算出する必要があります。
給付基礎日額とは労働基準法上の平均賃金に相当する額のことであり、原則として事故発生日の前3ヶ月間を対象に計算した1日当たりの賃金のことです。
※3ヶ月を超えるスパンで支給される賞与などは計算に含めないことが多いです。
例えば、月の賃金をが30万円の方がいたとして、3ヶ月を90日として計算すると、
給付基礎日額 = 30万円×3ヶ月÷90日
= 1万円
となります。
そして休業1日あたり給付基礎日額の80%(休業給付として60%、休業特別支給金として20%、合計80%)が支給されるとされていますので、休業補償の額は
休業1日あたりの支給額 = 1万円×80%
= 8,000円
となります。
休業損害の計算方法
休業損害については相手方との交渉次第で変わってきますが、ここでは被害者救済を目的とする自賠責保険から受け取ることのできる金額について説明します。自賠責保険を利用すれば、相手方に一切支払能力がなく相手方が任意保険にも加入していないという場合でも、最低限の補償は期待できます。
自賠責保険により受け取ることのできる金銭は、原則、1日あたり6,100円と定められています。休業補償のように、各人のこれまでの給与額などは影響しないという特徴を持ちます。
もっとも、それ以上の収入減があったことを立証すれば19,000円までは受け取ることも可能です。
なお,「6,100円」や「19,000円」といった金額は変更されることがあります。自賠責保険に請求を行う場合には最新情報をチェックすることが必要です。
あとは、1日あたりの支払額に休業日数を掛け算するだけです。
例えば20日間休業したのであれば、
休業損害 = 6,100円×20日
= 122,000円
となります。
休業日数については自己申告のみでは不十分ですので、勤務先の会社に「休業損害証明書」を発行してもらい,何日間休んだのかを証明するための書類を提出するようにしましょう。
休業損害の特色
休業補償と比べたときの休業損害の特色としては、以下3点が挙げられます。
1. 個人事業主や専業主婦でも受け取ることができる
2. 有給休暇の消化も損害として扱ってもらうことができる
3. 過失割合に応じて減額されてしまう
自賠責保険を利用した休業損害の場合、1日あたりの支給額は低額での取り扱いとなりますが、個人事業主や専業主婦であっても幅広く受け取ることができます。主婦・主夫の場合、労働者ではないことから休業補償は受け取ることができないとされていますが、休業損害の計算上は家事労働をしているものとして一般的な労働者同様に金銭を受け取ることができます。
また、怪我等により休んだ日を有給休暇の消費により対応するというケースもあるでしょう。この場合、収入が減らないため休業補償の対象外とされてしまいますが、休業損害の計算上は休業したものとして扱うことができます。収入は減っていないものの、有給休暇が減るという実質的な損害は生じているからです。
最後に過失相殺についても考えておきましょう。交通事故の場合には特に争点となりやすいです。事故の原因が相手方の過失のみならず、自分の過失にも寄与している場合、その分を生じた損害から差し引くことを過失相殺と言います。
自賠責保険であれば重過失がある場合にのみ減額されますが、任意保険会社との交渉、加害者との交渉の場面では、被害者側に少しでも過失が認定されればその分請求額は減額されてしまいます。