近藤姫美法律事務所

後遺障害と等級認定の仕組み~交通事故で後遺症が残ったときの損害賠償請求~

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後遺障害と等級認定の仕組み~交通事故で後遺症が残ったときの損害賠償請求~

後遺障害と等級認定の仕組み~交通事故で後遺症が残ったときの損害賠償請求~

2023/09/08

後遺障害と等級認定の仕組み~交通事故で後遺症が残ったときの損害賠償請求~

 交通事故に巻き込まれると大きな怪我を負う可能性が高く、ときには障害が残ることもあります。一般にこの状態を「後遺症」と呼びますが、法律上「後遺障害」と呼ぶこともあります。ただ、後遺症と後遺障害は常に一致するわけではありませんので、損害賠償請求をするうえでは後遺障害が何を指しているのかを正しく理解することが重要です。
そこで,この記事では後遺障害に関して解説し、さらに後遺障害の程度を示し,損害賠償額の指標にもなる等級について言及していきます。

 

後遺障害とは何か

 

 交通事故に限らず、怪我を負って障害が残った場合、その症状を「後遺症」と呼ぶのが一般的です。厳格な定義はなく、症状の程度や性質など問わず幅広く後遺症と呼称することが多いです。

 他方で,法律上は「後遺障害」に該当するかどうかがポイントになってきます。なぜなら損害賠償請求をするには前提として権利・法益の侵害を受けていなければならず、その侵害の有無や程度が法的に評価できなければならないからです。
そこで自賠責保険においては後遺障害につき定型的処理を行っており、一定の基準に沿った後遺障害の認定を行い、被害者救済を図っています。後遺障害の程度を等級として認定する制度を設け、等級別に損害算定をしやすくしているのです。

 

障害の診断と法的な評価について

 

 障害は外観上明らかなものもあればそうでないものもあり、簡単に等級の認定を行うことはできません。被害者が言っていることや思っていることだけで判断するわけにはいかず、医師による診断が求められます。
ただ、ここで重要なのが医師による診断があったとしても,裁判をした場合に100パーセント医師が診断した通りの結果になるわけではないということです。実際、医師がある障害の診断結果を出したにもかかわらず、裁判官がその障害につき否定するケースもあります。

 裁判所と医者では,何のために「後遺症がある」と判断するかどうかが違います。医師による診断は治療を主目的としているのに対し、法律上の判断は民事責任上の損害賠償額算定を主目的としています。診断基準と損害賠償における基準に違いがあることから、こうした問題が起こりえるのです。

かい

後遺障害の等級とは

 交通事故による損害には、「傷害による損害」「死亡による損害」などが挙げられます。
前者には治療費・通院交通費・休業損害・傷害慰謝料などが含まれます。後者には死亡までの傷害で生じた上記損害に加え、死亡慰謝料・逸失利益・葬儀費用などが含まれます。

そして後遺障害を負ったときには、「後遺障害による損害」も観念されます。一定の症状が身体に残ったことによる労働能力の喪失や身体・精神上の損害として、逸失利益と後遺障害慰謝料が加害者側に請求できるようになります。

ただ上述の通り、後遺症が残ったことに加え所定の手続を経て後遺障害等級の認定を受けてからでなければ請求はできません。
そして認定された等級は、逸失利益においては労働能力の喪失具合を表し、後遺障害慰謝料においては基準額を示す指標となるのです。

等級別の後遺障害と損害賠償額

 自賠責保険では、後遺障害による損害について下表のように保険金額を設定しています。


介護を要する後遺障害の場合

等級

後遺障害の例 保険金額の限度 労働能力喪失率
1級 神経系統・精神、胸腹部臓器に著しい障害があり、常時介護を要する 4,000万円 100%
2級 神経系統・精神、胸腹部臓器に著しい障害があり、随時介護を要する 3,000万円 100%

 


上表以外の後遺障害の場合

等級 後遺障害の例 保険金額の限度 労働能力喪失率
1級 両目の失明、咀嚼と言語機能の喪失、両脚あるいは両腕をなくした 3,000万円 100%
2級 片目が失明し、他方の目の視力も0.02以下になった
両腕を手関節以上で失った
2,590万円 100%
3級 片目が失明し、他方の目の視力も0.06以下になった
両手の手指のすべて失った
2,219万円 100%
4級

両目の視力が0.06以下になった
両耳の聴力を失った
両手の手指のすべてが使えなくなった

1,889万円 92%
5級 片目が失明し、他方の目の視力も0.1以下になった
両足の足指のすべてを失った
1,574万円 79%
6級 両目の視力が0.1以下になった
両耳につき近くで大声を出さなければ聞こえない程度に聴力を失った
1,296万円 67%
7級 片目が失明し、他方の目の視力も0.6以下になった
両耳につき40㎝以上の距離で話声を解することができなくなった
1,051万円 56%
8級 片目が失明あるいは視力が0.02以下になった
脊柱に運動障害が残った
片足の足指のすべてを失った
819万円 45%
9級 両目の視力が0.6以下になった
片目の視力が0.06以下になった
咀嚼と言語機能に障害が残った
外貌に相当程度の醜状が残った
616万円 35%
10級 片目の視力が0.1以下になった
両耳の聴力が、1m以上の距離で話声を解することが困難な程度になった
461万円 27%
11級 両目のまぶたに著しい運動障害が残った
両耳の聴力が、1m以上の距離で小声を解することが困難な程度になった
331万円 20%
12級 片目のまぶたに著しい運動障害が残った
局部に頑固な神経症状が残った
外貌に醜状が残った
224万円 14%
13級 片目の視力が0.6以下になった
手のおや指の指骨の一部を失った
胸腹部臓器の機能に障害が残った
139万円 9%
14級 片目のまぶたに一部欠損が生じた
片耳の聴力が、1m以上の距離で小声を解することが困難な程度になった
局部に神経症状が残った
75万円 5%

 

 

 なお、支払限度額とは、逸失利益・慰謝料額等を合算した値のことです。それぞれの限度につき満額に達したときの最大値であり、項目ごとに上限があることにも注意が必要です。例えば常時介護を要する後遺障害の1級では限度額4,000万円とされていますが、慰謝料額については最大1,850万円(被扶養者ありの場合)とされています。計算の結果逸失利益が少なくなったから慰謝料額1,850万円以上にして4,000万円まで獲得する、といったことはできないのです。

 

 また、これは自賠責における基準であり、訴訟を提起した結果最終的に獲得できる金額が変わることもあります。
例えば常時介護を要する後遺障害の1級の認定を受けたとき、訴訟上の慰謝料の相場は2,800万円とされています。「裁判基準」「弁護士基準」などと呼ばれることもあり、自賠責で認められる額よりも大きくなる傾向にあります。
そのため自賠責保険や相手方が加入する任意保険の基準に従うのではなく、弁護士を介することで裁判基準を意識した交渉を行うことが大切です。

 

等級認定の手続

 後遺障害の等級認定を受けるためには、まず怪我の治療を始めなくてはなりません。事故直後に手続を進めることはできません。医師から「これ以上治療をしても症状は改善しない」との診断(「症状固定」と呼ぶ)を受けることでようやく申請が始められるようになります。

 申請の方法には、①被害者請求、②事前認定の2パターンがあります。
被害者請求は、被害者自身が申請手続を進めることをいい、各種書類の準備を自分で進めていかなければならない反面、透明性という意味では安心できる手法といえます。どのような後遺障害であるのか、その内容を記した「後遺障害診断書」を取得し、その他レントゲンなどの資料を収集します。その後,自賠責保険会社・損害保険料率算出機構に対し,書類を送付します。審査は,損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が実施します。認定結果に不満がある場合には異議申立てをすることも可能です。

 これに対し,事前認定は加害者側が加入する任意保険会社に申請手続を任せることをいいます。後遺障害診断書を提出すれば,あとは必要資料等の準備は保険会社が進めてくれ、被害者としては手間がかかりません。ただ、立場上加害者よりである保険会社に任せることに不安を感じることもあるでしょうし、振り込みまでに時間がかかるという難点もあります。

 適正な等級認定がされなければ,十分な救済を受けることができません。できるだけ正確な認定をしてもらえるよう、十分な準備をしたうえで被害者請求を行うことが望ましいです。具体的にどのような資料を準備すべきか、どのように資料を作成すべきかわからないという方は弁護士に依頼して用意してもらうと良いでしょう。

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