遺言書の種類|作成方法やメリット・デメリットを詳しく解説
2024/05/03
遺言書には種類がいくつかあります。代表的な「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」、そして「秘密証書遺言」などがあります。これらはいずれも普通方式遺言と呼ばれるタイプで、これとは別に特別方式遺言と呼ばれるタイプもあります。
これだけ色んな種類があると、遺言書を作成するときにどのタイプを選択すれば良いのかと悩むこともあるかもしれません。
そこでこの記事ではそれぞれの特徴を紹介し、作成方法の違いなどに関しても解説をしていきます。種類別に適した場面がありますので、それぞれの特徴を把握し、自分に合った遺言書を選べるようにしましょう。
自筆証書遺言について
自筆証書遺言は、その名の通り、全文を自筆で書いた場合の遺言書のことです。自筆しなければなりませんが、自分で全て遺言書を書くことができる場合には遺言者1人で作成を進めることができます。
例えば,公正証書遺言だと,作成までに公証役場での手続を行わなければなりませんし、場合によっては証人が求められるなど、1人で作成することができません。
そのため遺言の中でもっとも作成例が多いのはこの自筆証書遺言です。
自筆証書遺言の作成方法
自筆証書遺言は1人で好きなタイミングで作成することができますが、作成方法は法令で指定されています。
もっとも基本的なルールが民法第968条第1項に規定されています。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名
を自書し、これに印を押さなければならない。
引用:e-Gov法令検索 民法第968条第1項
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
つまり、遺言の内容を記す全文に加え、遺言書には日付や氏名、印が必要であるということです。そして日付や氏名の記載に関しても自書が求められています。
1人で作成できるといっても法令に則った方法で作成しなければその有効性は担保されません。
また、いったん作成した遺言書の一部変更、内容を加える、あるいは減らすといったことも可能です。ただしその場合に関しても「場所の指示、変更した旨の付記とそれに対する署名と印」をしていなければ効力は生じないと法定されていますので要注意です。
なお、遺言書と一体のものとして添付する財産目録に関しては、自書が必須とはされていません。近年の法改正により要件が緩和されましたので、プリントアウトされたものを用いてもかまいません。ただし、遺言者による署名と印は必要です。
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言のメリットとして次の内容が挙げられます。
- 低コストで作成できる
- 遺言書の存在とその内容を秘密にできる
- いつでも作成できる
他の遺言書だと手続に手数料が必要になることもあるのですが、自筆証書遺言では手数料がかかりませn。書面とペンや印鑑などを用意するだけで十分ですので、作成にかかるコストはほぼゼロです。
遺言書を作成したことを家族に知られたくないという方にとってもメリットが大きいです。自分1人で作成でき、遺言書を見つからないように保管していれば,存在を隠すことができます。
遺言書を作成したことを伝えていたとしても、その内容が相続開始まで知られることはありません。
証人が必要ないこと、所定の窓口で手続を行う必要がないことなど、とにかく好きなタイミングでマイペースに作成を進められるのも自筆証書遺言のメリットです。
自筆証書遺言のデメリット
メリットも多い自筆証書遺言ですが、逆にデメリットとして次の内容が挙げられます。
- 形式的な不備に気づけず無効になるおそれがある
- 紛失や盗難のおそれがある
- 遺言書が本物であることの証明が難しい
- 遺言書が見つからないまま遺産分割協議が始まってしまうおそれがある
1人で作成できるものの、法令に反した内容や方法で作成してしまわないように注意しなければなりません。
形式的な不備があったとしても、その意図を汲んで相続人らが遺産分割等をしてくれることもあるでしょう。しかし相続人らの関係性が良好でない場合、一部の人物が遺言書の無効を主張してくる可能性もあります。そして法令に準拠していない遺言書だと、無効であるとの主張が通ってしまうことの方が多いです。
そのため、自筆証書遺言であっても、1人で作成するのではなく、弁護士などの専門家にチェックをしてもらうことが望ましいです。
適式に作成ができたとして、その後遺言書が効力を生じるのがいつになるかわかりません。実際に相続が開始されるのが10年後になったとして、そのときまで無事に遺言書が保管されていなければ意味をなしません。その間、個人的に保管をしていたのでは紛失や盗難,家事などの災害時に焼けてしまう等のリスクにさらされ続けることとなってしまうのです。
ただ、最近は自筆証書遺言でも法務局が保管をしてくれる制度ができましたので、この制度を活用することでこの問題は解決できるかもしれません。
公正証書遺言について
公正証書遺言は、公正証書として作成する遺言書のことです。直接作成を行うのは公証人ですので、“公文書”として取り扱われることになります
自筆証書遺言に次いで作成例が多い遺言書の種類です。自筆証書遺言よりも手間も費用もかかりますが、その分安全に作成を進められるようになります。
公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言の作成方法に関しては、民法第969条に基本的なルールが規定されています。
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、
又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、
印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証
人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨
を付記して、これに署名し、印を押すこと。
引用:e-Gov法令検索 民法第969条
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
つまり、作成にあたり遺言者本人の他、証人2人以上と公証人が参加することとなります。実際に書面に筆記していくのは公証人であり、遺言者は遺言内容を公証人に口頭で伝えます。
遺言者と証人は筆記された遺言書の内容を聞き、または閲覧し、内容が正確であることを示すため署名と印を押します。
具体的な作成方法に関しては公証人等から案内が受けられますし、あまり細かく覚えておく必要はありません。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言のメリットは次の通りです
- 法的に有効な遺言書が作成できる
- 安全に保管され、改ざんや紛失・盗難のリスクがない
公正証書遺言は公証役場で作成されます。公証人とともに作成を行うため形式的な不備は防ぎやすくなります。作成後も遺言書の有効性につき不安を抱くことがありません。安心感が得られます。
また、作成された遺言書原本は公証役場で保管してくれます。
利害関係を持つ人物に盗難されたり改ざんされたりといったリスクもありません。そうした点に不安を持っているという方には公正証書遺言を選択するメリットが大きいといえるでしょう。
公正証書遺言のデメリット
公正証書遺言として作成するには、次のデメリットがあることも把握しておかなければなりません。
- コストがかかる
- 遺言書の存在と内容が知られる
遺言書に限らず、公正証書を作成するには、公証人に対する手数料の支払いが必要です。書面に記載する財産の価額に対応して手数料を負担しなければならないことが公証人手数料令に規定されています。遺言書に記載する財産の大きさに対応したコストが発生します
例えば,遺産の総額が100万円以下であれば手数料は5,000円。遺産の総額が100万円を超えて200万円以下なら7,000円。といった形で遺産の額が大きければ大きくなるほど,公証役場に納める手数料の額も増していきます。ただ、財産の価額が1億円を超えるようなケースでも数万円程度で済むケースが多いです。
そのためコストの問題で公正証書遺言を選択できないという事態にはならないでしょう。
また、作成過程で公証人および証人に遺言内容が知られてしまいます。どうしても遺言の内容を第三者にも隠したいという場合にはデメリットがあります。
特に、公証人に関してはまったく関係性のない第三者ですが、証人に関しては遺言者が選定すると身近な人物ということになってきます。身近な人物に内容を知られたくない場合には弁護士などの専門家に依頼すると良いでしょう。
秘密証書遺言について
秘密証書遺言は、ある種自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的特徴を持つ遺言書であるといえます。
というのも、遺言書自体は遺言者自身が作成をする一方で、遺言書の存在に関する公証を公証役場で行うことになるからです。
そこで、“秘密”証書遺言という名称ですが、これは「遺言内容の秘密は維持しつつ、公証役場で遺言書の存在を公証してもらうことができる遺言書」という意味を示します。
すべてを秘密にできるのは自筆証書遺言であり、公正証書遺言に近いものの“ある程度の秘密を保てる”というニュアンスで捉えておくと良いでしょう。
秘密証書遺言の作成方法
秘密証書遺言の作成方法に関しては、民法第970条第1項に基本的なルールが置かれています
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書
である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺
言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
引用:e-Gov法令検索 民法第970条第1項
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
遺言書の封をするところまでは遺言者1人で進めることができます。自書の必要はありませんが、署名および印は必要です。また、遺言書に用いたものと同じ印章で封印を行う必要があります。
封印まで自分で行うことになりますので、その過程に不備が含まれていても気づくことができません。
なお、その後は公正証書遺言と同じく公証人と証人2人以上の面前で手続を進めます。封書を提出し、全員が署名と印を押します。
封印後の手続に関しては公証人がサポートしてくれますので、詳細を覚えておく必要はないでしょう。
秘密証書遺言のメリット
秘密証書遺言として作成することのメリットは次の通りです。
- 遺言書の存在を証明できる
- 遺言内容の秘密を保てる
自筆証書遺言だと作成した遺言書が本物であることの証明が難しいですし、相続開始後も存在が見つからないままになるなどのリスクがあります。
これらのリスクを秘密証書遺言なら排除できます。
また、その存在につき公証をしてもらい安心を得つつも、中身を見られることは避けられます。
秘密証書遺言のデメリット
秘密証書遺言のデメリットは次の通りです。
- コストがかかる
- 遺言書が無効になるリスクがある
- 保管は自分でしなければならない
秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言双方の良さを取り入れているようで、双方のデメリットもそのまま残っています
特に、遺言内容やその作成方法の不備により無効になってしまうという、問題が解決できていないのは大きな問題です
また、中身を秘密にできる点に良さがあるとされていますが、上述の通り公正証書遺言でも証人の選び方次第で身内に遺言の内容を知られずに最後まで隠すことができます。
こういった理由もあり、実際に利用される例はそう多くありません。
特別方式遺言について
ここまでで説明した普通方式遺言は、基本的に誰もが自由に選択できる遺言書の種類です。
これに対し、特別のシチュエーションで利用することになるのが特別方式遺言です。疫病や船舶での遭難といった事情があり、上の遺言書作成方式に従うことが困難な場合に利用されます。 ほぼ用いられることのない遺言書ですので詳細は割愛しますが、「難病を患っている」「職業上、船で遭難するリスクがある」といった事情のある方は、一度弁護士に相談して作成方法について把握しておくと良いかもしれません。