交通事故加害者と示談交渉をする時の注意点まとめ
2023/06/02
交通事故に遭い、怪我を負ったり精神的な損失を被ったりしたときには、損害賠償を請求できます。その方法としては裁判を起こすという手段もひとつありますが、円滑に、負担も少なく解決するのであれば「示談」が有効です。しかし、示談で円満に解決するためには注意すべきことがたくさんあります。以下でその注意点をまとめていきますので、示談交渉をしようとしている方や、今後のために知識を備えておきたいという方はぜひ参考にしてください。
交通事故での示談の役割
示談とは和解を図るために行われる話し合いのことです。そのため手続の過程では意見が合わず対立することもあるかもしれませんが、最終的には互いに納得のいく形で終えることになります。
交通事故においては、事故を起こした加害者と被害者が当事者となり、その両者が裁判所を介することなく話し合って解決を目指します。お互い落ち着いて話ができる状態にあれば、わざわざ訴訟に頼るよりも示談で済ませた方が早く解決できますし、手続にかかる負担も少なくて済むというメリットがあります。
基本的には、「どのような被害や損害が生じたのか」「賠償額はいくらとするのか」といったことが話し合われます。ただ、当事者間の話し合いと言っても常に事故起こした張本人が主体となって話し合いを進めるとは限りません。むしろ一般的に加害者側は、加害者が加入する保険会社が主体となって進めていくことが多いです。
他方で被害者側はその当人が話し合いに応じるケースも少なくありません。そのため上手く交渉ができずに悩むことも多いです。
交通事故における示談交渉の注意点(被害者目線)
被害者になったとき、示談に慣れた保険会社と何の知識もなく交渉に入るのは危険です。本来請求できるはずの賠償金も請求できずに終わる可能性があります。精神的なものを含め、生じた損害が十分に回復できるよう、以下の事項に注意しましょう。
・安易に加害者側の意見を受け入れない
被害者が最も注意しないといけないのは、「安易に加害者側の主張に同意しない」ということです。
事故後、相手方の保険会社から示談の交渉を受けるかもしれませんが、分からないことに対して曖昧に答えるのではなく、とにかく受け入れないことが大切です。相手方の言い分が妥当なように聞こえたとしても、深く考えずその場で同意してしまうと、後から撤回できずそのまま交渉がとりまとめられてしまうおそれがあります。
被害が大きく、後遺症が残っている場合には、その一時の回答のせいで一生に響く損失を被るかもしれません。
そもそも、交渉を持ちかけてくる保険会社が加害者側の立場にあることを認識しておかなければなりません。中立な立場ではありませんので「示談金はこれくらいが妥当であり、それ以上の金額を求めることはできない」などと言われても受け入れる必要はありません。
保険会社はできるだけ示談金を安く低くしようとしてきます。
特に治療費に関する交渉には注意が必要です。なかなか終わらない治療に対して、治療費の打ち切りを促し、症状固定の話に進もうとしてくることがあります。症状が固定するとその後の治療費などは請求できなくなってしまいます。症状固定の可否は医学的知見に基づき、医師に判断してもらうべき事柄ですので、こちらに関してもやはり相手方の意見を鵜呑みにしてはいけません。
・後遺障害等級の認定がされるまでの期間は合意しない
交通事故で怪我をした場合の損害額を正しく算定するのは簡単ではありません。完治すればそれまでの治療費等から計算ができますが、後遺症が残ることもあります。そうすると、事故がきっかけで負ってしまった後遺症の影響も計算に含めなくてはなりません。
この計算で重要になるのが「後遺障害等級」の認定です。
残った障害の程度に応じて等級認定が行われ、そこから慰謝料額の算定などもできるようになります。
しかしながら、これが正しく認定されないままに交渉に応じてしまう方もいます。その理由としては「保険会社など、事故の相手方が交渉を急かしてくること」「被害者側としてもできれば早く解決して手続から解放されたいこと」「損害賠償の仕組みがよくわかっていない」などが挙げられます。
実際、被害者にとっては示談交渉も精神的な負担となり得ます。しかし後遺障害を無視して進めてしまわないように注意しましょう。
・示談金に含まれる内容を把握すること
相手方の主張を何でも受け入れないことは大切ですが、示談はお互いの合意に基づいて成立するものです。そのため被害者とはいえ、何でも自分の主張が通るわけではありません。
そこで、示談金には何が含まれるのかということの理解も大切です。法的に認められないお金を求め続けても解決はできませんし、そのような金銭は裁判上でも認められません。
示談金に含まれるものを整理すると、まず、大きく「積極損害」と「消極損害」、そして「慰謝料」に分けることができます。
積極損害は実際に支出したお金のことで、最も分かりやすい損害です。例えば治療費や通院費、診断書作成費などは金額が明示されますので損害額の計算も容易です。
消極損害は本来入ってくるはずであった収益分が相当します。例えば仕事で得るはずであった利益が事故によって得られなくなったときにはその分が消極損害となります。休業損害、逸失利益などのことです。
最後に慰謝料は、精神的苦痛に対する損害賠償額のことです。入院や通院に対しての慰謝料、後遺障害を負ったことによる慰謝料などがあります。ただし、車が壊れたことやペットが傷ついたことに対する慰謝料は認められません。
・損害賠償額の相場を把握すること
示談金に含まれる内容に加え、その相場を把握することも大切です。慰謝料を支払うべき項目であったとしても、相場からあまりにもかけ離れた高額な請求をしていては成立しません。重要なのは示談金の相場のみならず、裁判を要した場合に認定される額の相場も併せて把握しておくということです。
よく言われる3つの基準としては「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準」があり、この順に金額が高くなる傾向にあります。裁判基準を用いて示談金を決めることができればより被害者救済が実現されるのですが、これに応じてもらうのは簡単ではありません。そこで示談金額の交渉においては弁護士に依頼すべきでしょう。基準があるといっても簡単には計算できませんし、具体的事例によって金額は大きく変わってくるからです。
治療期間や入院・通院の別、後遺障害等級、過失割合、消極損害の程度など、非常に多くの項目を考慮していかなくてはなりません。そのため示談金額も数十万円から数千万円まで、非常に幅広いです。
・示談金の支払い方法の設定
満足のいく示談金で決まったとしても、まだ安心してはいけません。実際に支払われるかどうかはわからないからです。そこで、できるだけ示談金支払いの実効性が確保されるよう、支払い方法についてもきっちりと定めていきましょう。
第一に、支払期日の設定です。「○○年○○月○○日」などと明確に定めるべきです。
第二に、一括での支払いを求めましょう。分割にした場合、途中で支払いが途絶えてしまう可能性があり、そうすると再度加害者側とやり取りをしなくてはならなくなり、手間も精神的な負荷もかかってしまいます。とはいえ加害者から直接支払いを受けるケースでは大金を一括で求めるのは現実的に難しいでしょう。その場合には「保証人を付ける」「頭金を大きくしておく」「不動産などに強制執行ができるようにする」ことが有効です。
・示談書の作成
ここまでの内容を押さえて示談交渉ができたとしても、後で「そのような約束はしていない」などといわれてしまうかもしれません。こうした言い訳によるトラブルを防ぐために有効なのが示談書の作成です。
和解の成立を対外的に証明できる証拠を作るのです。
基本的には「当事者」「車両の特定」「事故・被害の内容」「期日や金額などの示談内容」「精算条項」「作成年月日」などが記載されます。
なお、決まった書式はありませんが、解釈の余地があったり、文言にあいまいさがあったりすると、結局その部分で争いが生ずるおそれがあります。そのため示談書の作成は専門家へ依頼すべきです。
まとめ
ここでは簡単に示談で注意すべき事柄をまとめましたが、実際には状況に応じて配慮すべきことがたくさんあります。法的知見を有していなければ適切な対応をしていくことは難しく、満足に示談を成立させることは難しいでしょう。弁護士に依頼することで効果的に交渉を進められますし、加害者側とのやり取りなど、手続上の負担も軽減させられます。万が一訴訟を提起することになっても代理人として対応可能です。
事故後の賠償請求に不安がある方は、まずは弁護士への相談がおすすめです。